ひとり寝
良人の留守の 一人寝に、
わたしは 何を 著て寝よう。
日本の女のすべて 著る
じみな 寝間著はみすぼらし、
非人の姿「死」の下絵、
わが子の前もけすさまじ。
わたしは 矢張ちりめんの
夜明の色の 茜染、
長襦袢をば選びましよ。
重い 狭霧がしつとりと
花に降るよな肌ざはり、
女に生れたしあはせも
これを 著るたび思はれる。
斜に 裾 曳く 長襦袢、
つい解けかかる襟もとを
軽く合せるその時は、
何のあてなくあこがれて
若さに 逸るたましひを
じつと 抑へる心もち。
それに、わたしの好きなのは、
白蝋の 灯にてらされた
夢見ごころの 長襦袢、
この 匂はしい明りゆゑ、
君なき 閨もみじろげば
息づむまでに 艶かし。
児等が寝すがた、今一度、
見まはしながら 灯をば消し、
寒い二月の 床のうへ、
こぼれる 脛を 裾に巻き、
つつましやかに足曲げて、
夜著を 被けば、 可笑しくも
君を 見初めたその 頃の
娘ごころに帰りゆく。
旅の 良人も、今ごろは
巴里の宿のまどろみに、
極楽鳥の姿する
わたしを夢に見てゐるか
与謝野晶子は尊敬する作家のひとり。
彼女の作品は当時はおろか、今でも『女』、そして『人間』としての表現が隠すこともなくありのままに文字にと表していると思う。
大正時代という独特の時代背景の中で、ただ純粋に一人の女として『愛』に生きた生き様。
数ある彼女の詩歌の中でも、彼女らしい詩のひとつではないかと思う。
ひとり寝の一夜。
こんな気持もわかる気がする。
そんな詩。
わたしは
日本の女のすべて
じみな
わが子の前もけすさまじ。
わたしは
重い
花に降るよな肌ざはり、
女に生れたしあはせも
これを
つい解けかかる襟もとを
軽く合せるその時は、
若さに
じつと
それに、わたしの好きなのは、
夢見ごころの
この
君なき
息づむまでに
見まはしながら
寒い二月の
こぼれる
つつましやかに足曲げて、
君を
娘ごころに帰りゆく。
旅の
極楽鳥の姿する
わたしを夢に見てゐるか
与謝野晶子は尊敬する作家のひとり。
彼女の作品は当時はおろか、今でも『女』、そして『人間』としての表現が隠すこともなくありのままに文字にと表していると思う。
大正時代という独特の時代背景の中で、ただ純粋に一人の女として『愛』に生きた生き様。
数ある彼女の詩歌の中でも、彼女らしい詩のひとつではないかと思う。
ひとり寝の一夜。
こんな気持もわかる気がする。
そんな詩。
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